「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成16年(2004)8月5日(木曜日)
中国のサッカー試合”反日”事件が意味するもの
決勝戦は「反日暴動」化し、現代版「義和団事件」になる
義和団事件は攘夷感情の発露でもあった。
ドイツもロシアもシナ人に対してじつに横暴であり、英米仏も中国に宣教師を派遣し、その裏では滅茶苦茶な蛮行を行い、無謀な植民地経営を続行しようとした。
ドイツ兵とロシア兵は通州などで狼藉、略奪、暴行の限りをつくし、民家に火を放ち、女性を陵辱し、財宝を奪い尽くした。
秩序だった軍、モラルの高い進出は日本だけだった。だから当時、中国の民衆は日本軍が入城すると歓喜した。
▲攘夷を政治利用できない中国の若者たちが問題なのだ!
ともかく「攘夷」だけを錦の御旗に掲げ、その後の展望のない義和団の乱は、指導者不在でもあったゆえに(もっとも西太后の第五列だから)、柴五郎が率いた日本軍の主導で義和団のゲリラは散々に蹴散らされた。
素朴で無知蒙昧の大衆を扇動する中華ナショナリズムは、ときに暴走を展開する。それは独裁の恐怖から逃れようとする、部屋の奥へ押し込められた、悲壮な、それでいて擬制のナショナリズムだからである。
日本の明治維新は尊皇攘夷だった。
攘夷に燃える青年達が途中から倒幕へ路線を変更したように、もしあのときの義和団が”官製やらせ暴動”ではなく、たとえば洪秀全が率いた「太平天国の乱」のように長期的ビジョンを持った指導者が存在していれば、攘夷暴動はほぼ間違いなく中華攘夷、打倒清朝となる筈だった。
中国の反日サッカー事件は「攘夷」を掲げる文脈からは義和団的暴挙でしかない。それは民衆の支持を得にくいであろう。民衆の願望は一日も早い民主化と共産党政治への決別であるのだから。
攘夷が同時に倒幕となれば、革命は成就できる。
サッカーから「攘夷暴動」が発展すれば「反共産」へと繋がる可能性がある。
だからこそ当局は極度に神経質になって警備を強化する。
「日本人」を守るためではない。暴徒が大衆を巻き添えにして、「反政府」「反共産党」へ流れ込むのを防ぐためである。
▲江沢民チルドレンの横暴
さて事実経過をざっと振り返る。
重慶で開催されたサッカー・アジア杯で日本チームに対して極めて悪質な反日行動がスタジオで起きた。
これは江沢民チルドランといわれる、「反日」を刷り込まれた、無知な若い人が中心だが、一方、かれらには「反日」しか表現の自由がないからである。
一般的にも中国人が「反日」に気軽に乗りやすいのは黄河四千年の歴史が証明する華夷秩序であり、東の蛮族=倭と蔑視してきた日本が経済的文明的に中国を遙かに超えた存在になったことに我慢できないからだ。
率直にいえば日本への嫉妬である。
報道に依れば、試合終了後には日本チームのバスが中国人観客に取り囲まれ、卵をぶつけられ、対オマーン戦では中国人観客の声援が中国とは関係の薄いオマーンにのみ寄せられ、対タイ戦でも日本選手への露骨なブーイングが目立った。
日本からのサポーター(三十人程度)にもゴミやモノが投げられ、しかもイラン戦では、国歌君が代の斉唱を無視し、中継するはずの中国テレビもその場面をカットした。
(これって卒業式で君が代を歌わない馬鹿達と似てますね)。
取材していた北京特派員の話では「日本人サポーターはスタンドの一隅に集められ、外野にいた単独個人参加の日本人も集められ、最後はバスに乗るところまで護衛された。重慶五万人のスタジオは無料のパス(入場券)をばらまいて作為的に埋められていたので、サッカーも知らない付和雷同の人が多かった」という。
済南に会場を移した対バーレーン戦では、スタンドに「釣魚島(尖閣諸島)は中国のもの」とサッカーとは関係のない反日スローガンが掲げられた。
重慶の評判を聞いて北京から近い済南に活動家が混入したのである。
当局は日本チームが参戦するサッカー場には、第二軍=人民武装警察を導入したうえ、千名規模の私服警官を会場に配置した。それほど厳しい警備体制を敷いたが、四年後の北京五輪は、このままでは開催も危ぶまれるとの声が聞かれた。
▲北京オリンピックを潰す名案
とするのならば、中国の面子を簡単につぶる方法も同時に見つかったことになる。中国の反日活動を日本が逆に梃子として政治宣伝に活用すればよいのだ。
共産党指導部は、その恐怖を前もって知っている。
かの共産主義青年団機関紙「中国青年報」ですら「こうした『愛国』には誰も喝采しない」とする論文を掲載し、「スポーツと政治を混同するな」。「市民の不満は、主に日本の右翼勢力の劣悪な行為のため」。「行き過ぎた民族感情のなかで報復の快感を味わったかもしれないが、スポーツの尊厳を損ない、本来の意義を失わせる」と書いた。
また「日本人サポーターが当初見込みより10分の1に減少した。『北京五輪が待っている』事実を忘れてはいけない」と珍しく冷静な対応を呼びかける。
たまたま北京に居た筆者は知り合いの中国人数人に電話などして、この事件の感想を聞いたが「え。そんな事件あったの?」とまるで無関心。
当局の懸念をよそに、一般市民の感情は明らかに乖離している。
▲「緑色芸人」も被害に
(緑は「民進党」のシンボルカラー)
(青が国民党。赤が共産党。)
さてさて、じつは同時期、まったく同質の、もう一つの事件が北京で起きていた。
台湾の人気歌手アーメィこと張恵妹が、北京の首都体育館で「個人リサイタル」を開いた。謂わば、都はるみが北京で独演会を行うような快挙である。
ところが北京はアーメィを嫌っており、陳水扁総統の就任式で請われて歌ったばっかりに、中国大陸側は彼女を「緑色芸人」と張り紙し、猛烈な「台湾独立反対」のキャーペーンを展開してきた。
「ネット上で『アーメィ・リサイタルを妨害しよう』という呼びかけがなされ、実際に7月31日のリサイタル会場には『反・台湾独立』を掲げる活動家たちがあつまり、警備と衝突した。会場では五回もX線検査を通らないと入れないほどの厳重な警備でアーメィ・ファンをがっかりさせた」(『自由時報』、8月1
日号)。
事態に慌てることはない。
子供じみた反日は劣等生が優等生にもつ、あの説明不能な深層心理、嫉妬が行動の源泉であり、中華文明の輻輳した嫉妬感情がなせる業であり、日本のマスコミは、むしろ北京オリンピック・ボイコットをほのめかせばいいのである。
たかが「毬蹴り」なれど、反日の事態を変に重く見た日本政府は細田官房長官が記者会見し、「中国で開催中のサッカー・アジアカップで中国人の観衆らが反日感情を露骨に示しているが、これについて外務省を通じ、改善を申し入れている。あくまでも平静に対応し、スポーツの交流で反日感情をあおるような結果を招いてはならない」と月並みなコメントを出したに止める。
また細田長官は中国政府に対して7月26日、28日と8月3日の3回、改善を申し入れた事実経過を公表した。
この土曜日、決勝戦は日本と中国が対戦する。
日本が勝つと暴動が起きる?
Tweet
|
最新の日記
<<
2025年7月
>>
日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 |
29 | 30 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 |
20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 |
27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 1 | 2 |
日記内を検索
コメント