2004/08/12 (産経新聞朝刊)
【中国暗影 成長の大矛盾】(3)腐敗の構造活力奪う「階層」固定化
二〇〇二年初め、一冊の本がセンセーションを巻き起こした。中国社会科学院社会研究所の「当代中国社会階層研究報告」だ。広範な調査に基づき中国社会を五つの階級と十の階層とに分類、中国が国家幹部、企業管理者などエリート階級に支配され、労働者、農民は最下層にある実態を明らかにした。
同じ時期には北京大学の閻志民教授らによる「中国現段階の階級階層研究」などの類書があったが、社会研究所の研究報告だけが、間もなく発禁になった。その階級分析は、労農階級が主体との共産党綱領の虚構を暴露しており、その年秋の第十六回共産党大会を控えた江沢民政権の怒りを買ったと関係者は証言する。
社会研究所はその後、内容を修正した「当代中国十大階層」を刊行した。先月には「当代中国社会流動」と題する新たな調査報告書を発表して、十大階層が固定的になり、社会の流動性が失われつつある現状を指摘した。
これは収入をベースに社会的地位を加味した分類で、
(1)−(3)を 「エリート階層」(4・7%)、
(4)−(7)を 「中間階層」 (30・1%)、
(8)−(10)を「基層階層」 (65・2%)
としている。収入面では私営企業経営者が突出しているが、国家幹部が持つ権力なども考慮に入れた結果だ。
社会流動とは、ある階層の人間が他の階層に移ることを指す。社会研究所の報告は、新中国発足以来の流動状況を五つの時期に分ける。このうち、
改革・開放路線が始まった一九七八年から九一年までの市場経済勃興(ぼっこう)期を第四期として、ここで大変化が起こった
と指摘する。
それまでの階級闘争史観に基づく差別的な階級区分が撤廃され、農村では人民公社を廃止して家庭請負制に移行した。郷鎮企業と呼ばれる小規模工業が誕生し、新たに登場した私営企業や外資系企業が成長し始めた時期だ。富の追求が社会の価値基準になる中で、わずかの資金と創意で起業し、富を築いた成功談が至るところで語られた。
トウ小平氏が「南巡講話」で改革加速を号令した九二年以降、現在までの第五期には、富の偏在が進み所得格差による階層分化が顕著になった。同時に階層が固定化していく。
社会研究所の報告によると、農民が(1)の「国家・団体の管理者」になる率は0・2%で、以下同様に(2)は0・5%、(3)0・8%、(4)0・9%という。
幹部の子弟が幹部職に就く率は非幹部子弟に比べ2・65倍と、階層内での世襲が増えた。
幹部の子は幹部、農民の子は農民、という伝統への回帰ともいえるが、報告はこれが不公平、不合理な制度、政策で生まれていることを問題にする。例えば、農民が子弟に高等教育を受けさせ、高収入の職に就かせることは極めて難しくなった。
一つには公教育投資の割合が都市77%、農村23%(二〇〇二年)と、児童・生徒の実数では60%近くを占める農村を軽視していることがある。
仮に大学入試に合格しても「教育の産業化」によって、都市の大学で学部授業料は年六千元(一元=約十三円)以上(一年、たったの78,000円だというのは日本的金銭感覚)かかり、一人あたりの年収(二〇〇三年)が二千六百元あまりの農民家庭(「年」収33,800円!)には負担しきれない。
トウ小平氏は「国民すべてに豊かになる権利とチャンスがある」と宣言、社会の活力を引き出した。ある意味で一線に並んだ富獲得競争に国民をかりだしたのが改革・開放路線だった。
しかし四半世紀を経て出来上がったのは「政治、経済、知識の三大エリートを頂点に、ルンペン・プロレタリアートを底辺にしたピラミッド社会」(胡鞍鋼・清華大学教授)であり、その固定化は社会の活力を奪う。
政治エリートの国家・社会の管理者は例外なく共産党員だ。この階層社会は江沢民時代の高成長路線とともに一段と深刻化した腐敗の構造でもある。
「権力を金に換える」現象は、土地使用の許認可権を握る行政幹部が、開発業者からわいろを得ることなど、無数の例がある。
第十六回党大会では私営企業家の入党を認め、エリート層の相互利益を温存する態勢が確立した。
(北京 伊藤正)
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