(NNA)2004年08月23日 中国
月収1万元でも雇えず、浙江で熟練工不足

中国・浙江省で熟練工が不足し、月収1万元(約13万円)以上で募集しても採用できないケースが出ている。

経済発展・産業の高度化とともに高級技術職への需要が急増、これに追いついていないことが直接の原因だが、背景には、若者の技術職離れといった構造的な問題も見え隠れしている。

熟練工不足問題は、同省で近年表面化している電力・土地不足問題よりもさらに深刻との声もあり、日系企業にとっても新たな進出リスクとなる可能性もありそうだ。【上海・江上志朗】

10数万元の年収でどうして1人の熟練工を雇えないのか?」。18日付人民日報はこう題する特集記事を掲載した。サブタイトルでは「浙江省での熟練工不足は電力不足、土地不足に続く深刻な問題」と指摘。「機械・電子産業の成長を妨げる要因となっている」とし、表面化しにくい問題の重要性をリポートした。

■3分の2が「資格無し」

同紙によると、同省内の企業で働く従業員は1,812万7,800人。このうち、各種技術者の資格を有する従業員は298万1,300人で、目標とする900万人には遠く及ばず、3分の2が「資格無し」の技術者となっている。

また、省内には熟練工と呼ばれる高級技術者はわずか56万人で、技術者全体の7%にとどまっているのが現状だ。先進国の熟練工の割合が20〜40%といわれる中、省内に熟練工が恒常的に不足していることを示している。

■受注額の流出は1日100万米ドル、海寧市

省都・杭州にはアパレル関連メーカーが2,000社あるといわれているが、この分野での熟練工はわずか100人。20社に1人の割合でしか熟練工がいない計算となり、産業の高度化に対応しきれていない状態だ。

「革製品の街」と知られる同省海寧市でも、熟練工の不足から工場が稼働しないケースが続出。国内外からの受注に応えられない状態が続き、同市全体で取り逃がしている受注額は1日100万米ドルに達しているといわれている。熟練工不足が産業全体の発展の阻害要因にまでなりつつあることを示しているといえる。

■問題解決には10年以上必要?

新華社電は先月、こうした熟練工の不足について、労働科学研究院の専門家の「現在の電力不足よりも熟練工不足の方がより深刻」とするコメントを配信した。「電力不足はインフラを整備することにより3〜5年で解決できるが、熟練工不足の問題解決には10年以上かかる」と指摘。「政府の熟練工不足の深刻さに対する認識が足りない」と異例の“政府批判”を展開した。

こうした熟練工不足に対する危機感の背景には、産業構造の高度化に加え、若者の技術職離れが加速していることがあることは間違いない。

■「イメージ」重視の若者

浙江紙「今日早報」によると、浙江理工大学国際服装学院実験研究センターの今年の卒業生60人の就職率は100%を達成。しかし、服装デザインの技術職として就職したのは全体の3分の1の20人。残りの学生はアパレル関連の営業部門や管理部門への就職を決めた。同センターの屠曄主任は「学生の就職先に対する要求は高まっている」として、小さな町工場などで技術職として働くよりも、大都市の大企業のオフィスで働くことを希望する学生が増えている現状を説明している。

また、ある工作機械メーカーのある工場長は「現在の若者は作業服を着て、油まみれになることを望まない。職業イメージを大切に考えているようだ」と述べ、技術職を尊重する若者が減っていることを懸念した。

■大学教育改革も一因に

中国では1999年から大学の定員を拡大。毎年卒業生の数は急増傾向にあり、1997年の約100万人から今秋は218万人、05年には約280万人にまで達するものと見られている。これまで敷居が高かった大学入学が身近になったことで若者のホワイトカラー志向がさらに強まり、「技術職離れ」が加速化していると指摘する声も出ている。

浙江省労働・社会保障庁培訓処の呉鈞・副処長は「社会全体で技術職に対する重要度が薄れており、『優秀な技術者は(立派な)人材である』という概念が確立されていない」として、社会全体で技術職に対する理解を深める必要性を強調している。

製造業を中心としたものづくり大省・浙江で今後、熟練工不足が解決できるかどうか。官民一体となった同省の長期的な対策が中国全体の労働市場にも影響を与えることは間違いなさそうだ。


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