(続き)

労働環境から経団連も動く

経団連は03年11月、少子高齢社会の日本の労働環境を踏まえ、外国人受け入れ問題中間報告を出した。そのなかで「性別・年齢・国籍など多様な属性や価値・発想を取り入れることで、経営環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し、企業の成長と従業員の自己実現につなげる異文化シナジーを生み出すべきだ」と強調した。また、外国人にきめ細かい公共サービスを提供するために、「地方自治への参加」に道を開くべきだとも提言している。

経済界と法曹界が外国人問題に正面から向き合うという時代の潮流を大いに歓迎したい。それは、「あるがままの在日として人権が尊重され、地域社会のなかで市民として共生したい」という民団の運動理念が、日本社会に拡大してきたことの証左だからである。

外登法改正を勝ち得た在日

在日の人権問題を日本社会に投げかけたのが、外国人登録法の改正運動であった。同法によって義務づけられている指紋押捺と登録証の常時携帯制度は、著しい人権侵害だとの民団の主張に対して、法務省は「公正な管理に資する」という文言を繰り返すのみであった。毎年12月の人権週間にも外国人の人権問題は無視され続けた。

ところが、青年会や婦人会の指紋拒否、民団の留保運動の高揚に抗しきれずに出した「指紋1回制度」によって、法務省が盾にしていた「指紋は何度も押すことに意味がある」という論理は自ら破綻した。

また、65年の韓日協定当時、「外国籍のままで日本に少数民族が永住することは、将来に禍根を残す」と断じた大手紙が、20年後の85年には指紋押捺の人権侵害性を日本社会に問うなど、在日を取り巻く環境が大きく変化していたのも追い風になった。

在日の地道な運動とそれに連帯した内外の市民運動の力によって、外国人管理の根幹をなした指紋制度は瓦解した。日本の法制度が在日主体の運動によって改正された事実は、民団が展開した運動の正当性が認められたことであり、市民運動とも連帯した人権運動の勝利でもあった。在日が人権運動に金字塔を打ち立てたと言っても過言ではない。

地方参政権は社会参画の道

民団は94年にそれまでの名称から「居留」をはずし、日本に「永住」することを鮮明に打ち出した。以来、今日まで地域住民としての権利である地方参政権獲得運動を全組織をあげて推進している。

この運動は、不当に管理される人権侵害からの解放を訴えた外国人登録法改正運動とは質的に違う。よそ者として日本社会とは一線を画す生き方ではなく、地域社会を構成する一員として、積極的な社会参画を求めている点でより高次元にある運動なのである。

ところが、「単一民族国家」の虚構から抜け出せない保守派議員らは、頑迷に抵抗、外国人と日本人との線引きに躍起になっている。そのため、「永住外国人地方選挙権法案」は、継続審議、廃案を繰り返してきた。

反対論者は「憲法上疑義がある」と、先延ばしに終始しているが、最高裁が選挙権法案のボールを国会に投げてから久しい。この最高裁の判断と10月末現在、全国3302自治体のうち1520の自治体が選挙権を求める意見書を採択している事実(民団中央本部国際局調べ)、また、永住外国人住民に住民投票権を付与する条例を制定した自治体が増え続け、9月末現在、145自治体にのぼっている(同)事実を真摯に受けとめなければならない。

日弁連や経団連が現在の日本の状況を直視し、外国人問題について提言した姿勢と自治体の動向に比べ、立法不作為をいつまでも続ける国会議員の態度はあまりにも落差が大きい。どちらが民意を反映しているかは自明であろう。

10月22日、「永住外国人地方選挙権法案」の審議入りが決まったが、自民党保守派議員の総本山「外国人参政権の慎重な取り扱いを要求する国会議員の会」は、改めて反対の方針を確認したという。

時代が大きく動く時には、抵抗勢力が最後の力をふりしぼるものだ。在日同胞の権益擁護運動を牽引してきた民団は、在日外国人の先駆者としてこれからも外国人の模範となるべく、率先垂範の重要な使命を担っていることを再認識したい。

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解説

日本弁護士連合会(日弁連)は、日本のすべての弁護士と全国52の弁護士会、外国法事務弁護士などで構成される連合組織だ。弁護士法に基づき、1949年9月1日に設立されている。国家機関からの監督を受けない独自の自治権を有し、弁護士業務はもとより人権擁護に関する様々な活動などに取り組んでいる。

市民に開かれた司法をめざす日弁連が、人権侵害を受けても容易に声をあげられなかった「外国籍市民」の外国人と民族的少数者のために「人権法」制定を提言した。この重みのある提言は、経済界の動きとも連動している。

(2004.10.27 民団新聞)



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