「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成16年(2004)11月18日

温州商人の地下ファンドのネットワークが華南全域に増殖中
国有銀行から預金者が大量に「グレィ・ゾーン」逃げ出している

中国の金融犯罪の捜査当局は、2004年九月までに「地下銀行」といわれる闇の金融業者86行を摘発した(「北京娯楽報」、11月3日)。

とくに当局が目を光らせたのは違法な外貨売買行為、摘発された不正金額は数十億人民元に達し、捜索に際しては五千万元のキャッシュと、290もの「通帳」(その記載総額は三千万元)を押収、すべての口座を凍結して合計194名を逮捕したという。

しかし右の数字は氷山の一角にしても少なすぎないか。

当局は「せっ江省だけで、二月から今日までにおおよそ十二億ドルに匹敵するカネが引き下ろされたとしている」(『TIME』、11月22日号)。

せっ江省と福建省の二省を眺めても、昨年秋口から数百万の口座が解約され、民間の地下銀行へ流れ出した。地下銀行と言っても日本のようにマフィア絡み、暴力団金融ではなく、中国ではいまのところ禁止されている私設銀行という意味である。

民衆は不良債権が肥大化する一方の四大銀行をまったく信用しておらず、闇の“銀行”、各地の伝統的な「講」、海外への不法送金が中心の地下銀行、そして昨今流行の「私募債ファンド」へカネを移し替えている。

後節にのべる「プライベートバンク」も店開きしている(四大銀行とは中国銀行、中国工商銀行、中国建設銀行、中国農業銀行である)。

いまのところ表面的に禁止されている「私募債ファンド」がひょっとして近いうちに中国では認可されそうと人々が騒ぎ出している。
 
人が都市へ流れ込むのは「民工潮」。それならばカネが国有銀行から私設銀行へ流れ込むのを新造語であてれば、「民銭潮」?

なぜなら銀行より地下銀行のほうが預金利息が良いからで、単純明快。銀行は2%しか利息が付かないが、町の銀行では6%からの利息がつく。

地下銀行の貸し出しレートは14%−15%の間で変動している。インフレが4・5%。ちなみに政府系銀行の貸出金利は6%内外。インフレ率より利息が高くなければ庶民は銀行にカネを預けはしない。
民間企業は、こうした灰色ゾーンの銀行を気楽に利用する。

中国ではどのみち、ベンチャーも民間企業も国有銀行からカネの貸し出しを受けられない。庶民から集めた預金はごっそりと赤字の国有企業への貸し付けにまわされ、不良債権は次々と膨らんでいく。

だからレストラン開店資金、工場の運転資金、はては屋台の開業資金にいたるまで、庶民はこうした講が発展したような「私設銀行」を利用する。政府もほぼ黙認するのは、カネが流れなければバブル経済の破綻が目に見えているからである。
まさに中国的智慧の「上に政策あれば、下に対策あり」だ。

十年ほど前まで、これほど地下銀行がおおっぴらなことはなかった。今や、どれだけの規模なのか、民衆の末端まで気軽に地下銀行を利用するので実態はつかみにくい。

中国には古来より「講」の伝統がある。
庶民は住宅の修繕費用とか、子供の入学資金とかを銀行でローンを組むのが難しいために近所の人をあつめて「講」を組織する。日本でも戦後しばらく向こう三軒両隣の時代に全国津々浦々にあった。

中国では、日本流の「消費者金融」はまだ本格化していない。
 
マンション購入、クルマの購入は三年ほど前までローン制度が普及していなかったので、一括キャッシュ買いが常識だった。親戚中から借りてくるのだ。

そうした要因が重なって地下銀行が大繁盛を極め。その元締めが不動産投機で稼ぐ新興財閥の温州集団である。

中国各地、どこの都市へ行ってもせっこう省商人のアーケードやショッピングセンターがある。「せっ江財閥」は嘗て蒋介石利権の代名詞ともなったが、そのイメージを付帯させるため、全土では嫌われ者だが商売のうまさには誰もが脱帽する。温州商人はその代表格である。

もっと大がかりなのが新冨人を対象としてプライベートバンク。アラファトや世界の独裁者専用ではなく、かなり公然と行われている。

上海、北京、広州などではバンカメもシティバンクが店開き、外貨預金を取り扱っている。北京、上海では金持ちを対象に秘密の金融セミナーが開催され、米国から専門家がやってきて講座を開催している。

豪邸にくらし、ベンツを乗り回し、毎晩ナイトクラブへ通う超リッチな種族を相手にプライベートバンクを紹介しているというから驚きである。
 
三月から六月までの三ヶ月間、中国は「外貨準備高」を発表しなかった。膨大な外貨が海外へキャピタル・フライトを続けていた。

それさえ叶わぬ庶民のカネは銀行を嫌って私設ファンド、地下銀行へ一斉に流しているのである。

中国の不良債権問題、表面的な数字を鵜呑みにしてはいけないだろう。

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