冷戦後期になって、ソ連は当時の盟友(北)ベトナムとの協定により、同国のカムラン湾に一定規模の部隊を駐留させたが、潜水艦や爆撃機を展開したわけではなく、また当時、フィリピンにはスービック海軍基地とクラーク空軍基地に強大な米軍が存在して睨みを効かしていたこともあり、中東から北東アジアに至る重要な海上交通路にとっての甚大な脅威とはなってはいなかった。

即ちソ連海軍は、日本海では重大な脅威となっていたが、カムチャッカ半島所在基地などを利用しても、西太平洋での展開には制約を受け、東シナ海や南シナ海においては、殆ど無力であったと言って良い。然るに

★中国は、マラッカ海峡以東、台湾・バシー海峡に至る南シナ海での長大な海上交通路は自身の【領海内に含むと一方的に宣言】するとともに、係争中であるASEAN諸国との同海での領有問題についても着々と実効支配を進めている

中国海軍は、台湾近辺を除く中国大陸沿岸に急速に近代化と増勢を図る3艦隊を擁しており、その気になれば、この海上交通路の全行程において、容易に海上の安全を妨害できる戦略的位置を占めている


そして最近では、尖閣諸島の領有問題や日中中間線問題にも見られるように、東シナ海方面への進出を強引に進めてきている。

さらに中国の海洋進出の傾向を見れば、情報収集艦による日本周航にも見られるように、明らかに日本海方面や、3海峡、太平洋方面の沿岸海域にも強い関心を示しており、また、沖縄周辺での不法な潜航領海侵犯、大隈海峡での浮上航行など、潜水艦などによる軍事活動も露わにしている。

加えて、小笠原列島線や沖ノ鳥島近辺での、海洋調査船や測量艦の動きなどを見れば、これらの動きが、中国海軍の潜水艦などの行動を念頭に置いた軍事的調査活動の一環であることは明らかである。即ち

★中国海軍は、今やその第1列島守備線である日本列島、南西諸島、台湾、南シナ海のラインを各種の潜水艦、水上艦、爆撃・攻撃機、弾道・巡航ミサイル(沿岸部であるため、非近代的・旧式の装備でも反復攻撃可能)で固め、

いよいよ中国にとっての国防上の辺彊たる第2列島守備線、即ち、概ねアリューシャン列島、東経150度線からニューギニア島に至る線で囲まれる小笠原諸島、沖ノ鳥島や米国領グアム島を包含する海域における近代的海軍活動の足跡を記し始めた
と見るべきであろう。

この海域には、わが国の排他的経済水域(EEZ)や重要な海上交通路がすっぽりと含まれているのである。

第1列島守備線を越え、第2列島守備線に至る海域での中国海軍の目的は明らかであり、究極的には西太平洋での覇権を争うこととなるであろう米海軍の行動を極力前程で抑えるという意味と、台湾問題などが生起した場合における米海軍の来援部隊の阻止行動にあると見られる。

このため、これらの海域で活動可能な滞洋性のある高性能の戦略原潜、戦術潜水艦、水上艦、空中給油可能な爆撃機、弾道ミサイルなどの増勢を企図している。

それ以上に中台問題は見逃せない問題である。

台湾はわが国の安全保障上、極めて重要である。一旦台湾が、現体制の中国に統一されたことを考えると、日本にとっては、中国という非民主(領土拡張一党独裁)国家との間に、全くバッファー(緩衝地域)のないまま、全面的に海上国境を接することとなる。

また、東シナ海から南シナ海に至る海上交通路は、中国が一元的にコントロールできる海域となる。

仮に、中台に戦闘状態が起これば、米国が周辺事態法による協力を要請する可能性が高い。

更に、中台間の軍事衝突は、わが国の直接的防衛事態であるとの受け止めも重要である。何故なら、西表島、与那国島など先島諸島の西端の島嶼や海空域は、戦場となる可能性があるからである。

また中国は、台湾問題が片付けば、次は尖閣諸島に本格的に乗り出してくるであろう。

★米国の状況如何によっては、台湾問題の前に、尖閣諸島に軍事的措置を行う可能性もある。

現に竹島を占領されていても何ら手を打てない日本が、そうなったとしても何をできるだろうかw

要するに、少なくとも近い将来、★中国海軍は、

第1に、長大な海上交通路やわが国の権益のあるEEZにおいて、潜水艦、水上艦、爆撃・攻撃機、弾道・巡航ミサイルなどにより、

第2に、わが国周辺海域の、島嶼、港湾、海峡、水道、沿岸などにおいて、潜水艦、水上艦、爆撃機、弾道ミサイルなどにより、本格的侵攻事態を生起しうる潜在的脅威
と認識すべきなのである。

正に中国海軍の強引な海洋進出により、わが海上防衛力と中国海軍力は、一触即発寸前の状況になっているのである。

(3)非国家主体に起因する脅威など

国際テロリストについては、国際社会や、時には日本、日本人をターゲットとした日本の内外での地上テロや、重要な海上交通路の航路収束点たるマラッカ海峡などでの無差別海上テロを想定しなければならない。

この脅威としては、地元の海賊との結託や独自で調達した船舶(コンテナー船、小型ボート、潜水艇を含む)による攻撃を予期しなければならない。

また、テロリストが北朝鮮などの懸念国家と結託する可能性は高く、この場合、事態は複雑、不明確、かつ深刻となる。また、北朝鮮などを起着点とする大量破壊兵器などの拡散をPSI活動などにより実力阻止する必要性も高まっている。

3.海上自衛隊の作戦

こういった脅威に対してわが海上自衛隊はどのような作戦を実施することとなるのか。

先ず言えることは、「有識者懇談会」や防衛庁内の「防衛力のあり方検討会議」などの議論を踏まえて、海上自衛隊に付与されるであろうと想定される任務(本格的侵略事態、新たな脅威への対応、国際社会安定化への貢献)に照らして考えると、想定する危険要因や脅威の態様、行動海域、作戦の特徴といった点に鑑み、これを担任する海上自衛隊の部隊構成を大きく2区分とすることが効率的であるということである。即ち、

わが国の近海・遠洋海域における緊要かつ長大な商業・軍事海上交通路や広大なEEZ(排他的経済水域)など、広域海上防衛を担任する部隊と、沿岸部の領海・周辺海域における島嶼、港湾、海峡、水道、沿岸など、狭域海上防衛を担任する部隊とに分けることが、無駄や無理のない効率的な「多機能柔軟性防衛力」の構築に向いているということになる。

このことは結果的に、現在の自衛艦隊(機動運用部隊)と地方隊(地域警備部隊)との区分が適当である。

しかし両部隊の構成について細部を検討すると、わが国財政状況の逼迫性からして、今後暫くは防衛力の量的増勢が見込めないとすれば、相当に大胆な発想力をもって質的な方向転換を行う必要がでてくる。以下具体的に検討を進める。


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